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相手のことは、相手を通してでないとわからない

TさんとはNLP(神経言語プログラミング)を学ぶ場でご一緒したのがきっかけで知り合いました。多忙な毎日の中、時間をやりくりして学び続けていらっしゃることにも、そのお人柄が現れていますね。
私からみたTさんは、”人を大切にする”ということを最高にシンプルに体現している人です。そこは若さに似合わず、とても知恵深いものを感じます。

 

Q.Tさんが人と接する時には、どんな想いがありますか?


A.僕には基本的に「相手のことは相手を通してではないとわからない」という想いがあります。だからまず人間観察をしたいんです。で、観察する時には、先入観が何もないところから見ています。
人に対しては、ぱっと見はこうかな~と思っても、そのことは自分が思ったこととして決め付けることもしません。相手の人が言うことを「あぁ、そうなんだ~」とぜーんぶ受け入れてしまう。

そういう風に接していくと、人は基本的にはわかってほしいと思っているから、どんどん話してくれますね。
それをまた素直にぜーんぶ聴いてしまう。すると、ただそれだけで相手の人は「すっきりした!」と帰っていくんです。そういうこと、よくあります。

Q.それは、仕事の上での患者さんとの関わりだけではなく、人間全般で?
A.そうです。

Q.もともと、医師になりたいと思われたきっかけは何だったのですか?
A.僕は「目標があって、そこにまっすぐ飛んでいく」というのが好きなんです。
昔はパイロットになりたかった。イメージでいえば、戦闘機みたいな飛行機でひゅーっと飛んでいって、目標に到達、という感じ。残念ながら目が悪かったこともあって、実現には至りませんでしたが。

僕の祖父が医者なんですが、医者のいいところは”患者さんは治りたい。医者は治したい”と、両者の目標が一緒なんですよ。だから共通の目標に向かって最短ですーっと飛んでいければいい。それっていいなぁと思ったんです。
もともと人間観察がしたい、という想いは小さい頃からありましたから、人間相手の仕事ということでおもしろさも感じました

Q.小さい頃から人間観察が好きだったんですか?  
A.好きでした。「相手のことはわからない」と思っていましたから。

Q.わからないというのは、何が・・・?
A.小学校の頃、まわりでいじめが起きても、何でいじめるんだろう?なんでこの子がいじめられるんだろう?大人の人は、どうしてこんなことを言うのかな?とか。
本当にわからないことが多くて、いつも”なんでなんだろう? どうしてなんだろう?”と思っていました。

医者の仕事が目標に飛んでいける、とういのは魅力的でしたし、なおかつ一つ思ったのは、祖父はとりたてて裕福ではなかったけれど、人から尊敬されていて、人にとても大切にされていたんです。
困ったらみんなが頼りにする。そんな祖父がとても頼もしく見えて、そこに惹かれたんです。

Q.そこにとても惹かれたんですね。その”尊敬される”というのは、Tさんにとってはどういうイメージなんですか?人に奉られたがっている人には見えないけれど。
A.祖父と患者さんの関係には表・裏がなくて、祖父も患者さんのことを尊敬し、尊敬されて、なおかつお金がもらえて、目標が一緒!どこにも不自由さを感じないでしょ?

Q.なるほど。”不自由さがない”というのが大切なんですね。  
A.はい。相手のことを想う、というのが僕は好きですから。

Q.相手のことを想うって、言葉自体はわかりやすいんだけれど、具体的にはその時何をしている感じですか?  
A.う~ん・・・。相手のことをそのまま受け取れる。自分が思ったことをそのまま言える。建前とかそんなものがない、ありのままでいられる、という感じです。

Q.確かに、Tさんと話していると”ありのまま受け取ってもらっている安心感”がすごくあります。だから人がたくさん寄ってきていますよね。
そして客観的に見ていて、人が寄ってきた時の受け入れ態勢がすごく整っている感じがするんです。門が大きく開いている感じ。頼まれ事も多いのに、いつも人のお世話をしているし。  
A.基本的に僕は無理はしないんです。頼まれ事についても「これはできます。これはちょっと無理みたい」とちゃんと言うから、相手も無理はしなくて、その中でお互い折り合いをつけています。

Q.そこに何もこだわりがないですよね。できないって言ったら悪いかな、とか何も。
A.何にもないですねぇ。 人を大切にしたいという想いがあるので、有効に色々なことをしたいと思うけれど、自分が無理をしたら多分相手に伝わるでしょうし、無理をした人間関係ってつらいだけだから、あまり好きではないです。

Q.そこはお見事!
A.わかりました(笑)

Q.以前からそういうこだわりはなかったんですか? 
A.大学にはいってからかなぁ。高校までは勉強にしても何にしても”やるだけやろう!”という氣があって、とにかく勉強ばっかりやっていましたから。
勉強も無理してするとつらいイメージが残りますね。活き活きした感じがないんですよ。自由もなくて生きてもなくて、灰色の人生。 だから高校の時のイメージは灰色が結構多いですね。

 

 

精神科医Tさん

Tさんは、内科・麻酔科・救急部などで一度医師として勤務された後、大学院で遺伝研究をされ、現在精神神経医として活躍していらっしゃいます。
ご都合により匿名ではありますが、私からみたTさんは、”人を大切にする”ということを最高にシンプルに体現している人です。そこは若さに似合わず、とても知恵深いものを感じます。Tさんの人生からの知恵をどうぞ受け取ってください。


驚異的な勉強ぶりだった学生時代

Q.勉強ばっかりというと、どのくらい勉強ばっかりだったんですか?  
A.寝るか、食事か、トイレか風呂か、歯を磨く以外は全部勉強でした。

Q.テレビも見ずに? 
A.テレビを見ちゃうことはほとんどなかったですね。一年間に何回か。大晦日も紅白歌合戦もみない。
もちろんお正月も見ないし、ニュースも・・・昭和から平成になった時も見ていないから、写真で当時の小渕官房長官が”平成”と書いた紙を持っているのを見て、”あぁ、そうなんだ”と思ったくらいで。

Q.徹底していますね!その時はなぜそこまで頑張れたんですか?  
A.医学部に入って人間観察がしたい、という想いがあったのと、親に迷惑をかけたくない、という氣持ちがありました。医師になりたい、ということで私立中学に行かせてもらったんですが、サラリーマン家庭で、経済的に余裕があるわけではないことがわかっていましたから。

さらに小学校では250人中1番だったんですが、中学に入学してすぐは、150番中120番だったんです。150人中50番以内に入っていないと、国立の医学部は行けない、と言われていたので、ここに射程圏内おいたら70人抜きしなくちゃいけないんですよ。もう相当頑張らなくちゃいけない。

そんな時、知能テストの結果と学力って全然関係ない、とう話を教えてもらったんです。IQが高くても卒業時に成績の悪い人もいるし、逆にIQそれほど高くなくても、卒業時に成績がいい人もいっぱいいる。

つまりは努力次第なんだと。「だから頑張りなさい」と言われて素直に「はい!」って。もう馬車馬のように。

Q.それにしてもすごい。医学部に行きたい、医師になりたい、の一念だけでそこまでできたんですねぇ。
A.多分ね、手を抜けば次の一ヶ月後の試験で150番になったと思います。周りの人たちの勉強の仕方も半端じゃないですから。

お風呂の中でも読める英単語の本っていうのがあって、みんな持っているんです。だから僕は、その3倍くらい頑張らないとダメかな、という氣になりました。

Q.いつ頃50番以内に入ったんですか?
A.3ヵ月後です。

Q.え~~!?3ヵ月後?  
A.だってそれだけ頑張りましたもん。

Q.4月の入学時は120番で、7月後には50番!その後は?  
A.2年生になる時は20~30番で、3年生からは20番、高校生からは10番くらいで、卒業する時は2番でした。

Q.その6年間、ずーっと同じ調子で勉強していたんですか?  
A.はい、ずーっと。だから6年間全然遊んでいないですよ。

Q.よくまぁ6年間・・・続けること自体がすごい!  
A.勉強ってロケットと一緒なんですよ。あるところまで飛んでいけば、後は無重力なんです。止めないだけです。本当に勉強だけを1年間やると、クセになります。
本を読む人も中途半端な本読みっていないですよ。読むか読まないかの2つに一つ。

Q.あー、わかります。  
A.でしょう。勉強もね、するかしないかなんです。

Q.ちょっとする、なんていうのはないんですね。  
A.ないですね。”ちょっとする”は”ちょっとしかしない”、つまり”しない”のと同じだと感じています。
最初の1年は大変でしたけど、勉強ができだすと、色々な人が聞きにやってくるでしょう。その人にまた勉強方法を聞くと、数学だけできるとか、理科だけできるとか色々なんですよ。
できるところはどうやって勉強しているの?と聴けば教えてくれるから、それを参考にすればまた上手になります。

Q.そうやってどんどん勉強ができるようになって、”じゃぁちょっとテレビ見ようかな~”とは思わなかったんですか? 
A.なかったです。

Q.漫画を読みたいとかは?  
A.漫画を読みたい時は、歴史漫画を読んでいました。他のことをしている時間が勿体ないので。 できればできるだけ、どんどん問題が解けるんです。だからどんどんわかるんです。そうしたらおもしろくて、テレビなんか全然見る氣になりませんでしたよ。

Q.なるほど~。明確な目標に集中しきる強さを感じます。そして希望の大学に入学されて、その後は?  
A.待望の人間観察に入ったので、勉強しまくりました。

Q.人間観察に入った上に、勉強しまくったと。 
A.「本物が知りたい」という想いがあるんですよね。

Q.今一番知りたいことは何ですか?  
A.やっぱり「人間てな~に?」でしょうね。

Q.それをずっと追求しているんですね。
A.はい、大学時代から現在までずーっとですね。

Q.途中で診療科を変わられているようですが、変わってからもですか?  
A.はい。
精神神経科に変わってからは、非常にいい感じです。診療をしていて医師と患者という関係だけではなく、人間と人間としてつながった感じでいられます。
例えば身体科だったら、彼女に振られて眠れないから頭痛がする、というのであっても、痛いなら痛み止めを出します、という話になると思うんですが、今はカウンセリングの中で、その背景のことを聞いてあげられたりする時間もあります。

相手と一緒にいられる実感があるんです。         

相手と一緒にいるということ

Q.相手と一緒にいられるって、具体的にはどういう状態ですか?  
A.相手の言ったことをありのままに聴けている状態かなぁ・・・?相手の世界を尊敬できている感じです。そういう時はとても幸せに感じます。

 

Q.同じ世界を共有していたり、同じ絵を見ている感じ?  
A.あ~、どうかなぁ。
同じ絵を見てもいいし、同じ音を聴いてもいいんですけど、相手の言ったことをそのまま受け取っている、といった感じです。相手が間違っていてもいいし、同じ絵を見ていなくてもいいんです。
相手が”暖かい”と言えば、”あ、暖かいんだなー”と。”嫌な氣持ちだ”も、”あ、嫌な氣持ちなんだなー”って。 自分の中で嫌な氣持ちじゃなくてもいいんです。
ただ、言ってもらうことをそのまま受け取っている。


Q.そこにはすごく知恵が潜んでいる感じがします。”そのまま受け取る”って、世の中ではすごく色々な意味で言われている感じがするんだけれど、Tさんはすごくシンプルに、それをやっていらっしゃると思うんです。
A.何を言われてもいいんです。

たとえば「もういやだー」って言われても、ありのまま「あ、いやなのね」と。でも僕は嫌じゃない。相手から何を言われても大丈夫で、「何をしてもいいよ~」という感じ。
相手が何を言ってきても「あ、そういうふうに感じているんだ」って、音響ホールの壁みたいに吸収してしまう。


Q.吸収して、そしてどうなるんですか? 
A.吸収してしまうとね、相手の中からはそれが吸い取られていきます。

特にいやな感情などを全部吸い取って・・・別にだからと言って、僕がそれを受け取るんじゃないんですよ。そのまま吸い取ってしまう。


Q.吸い取って・・・  
A.どこかから消えていく。
防音壁が音を吸収してしまって、音が消える。そこに新しく何かができる可能性がある空間を生み出す感じです。
それは”共感”とは違います。”共感”になったら自分が受けちゃうでしょ。


Q.共に感じちゃうからね。  
A.共に感じるのではなくて、あぁ相手は嫌に思っているんだー、そうなんだーって、そのままス~~っと・・・消えていく感じ。こちらも嫌な氣分が残らないでしょう。


Q.共感ではなくて、ただ受け取るだけなんですね。荷物を受け取って、つぎに渡すみたいな。 
A.はい、ただ受け取ってあげておく。楽ですよー。ただただ受け取る。

「絵」を聴く必要もないですし。 相手が「うれしい~!」って言ってもね、その嬉しさを無理に自分も味わおうとする必要はないんです。
無理しても相手に伝わっちゃうみたいなところがあって。ただ「あー、うれしいんだ」。    聴いていてこちらもうれしくなったら、「あー、それってうれしかったね」と返していくと、氣が巡る。循環する感じがしますよ。


Q.そこには「元氣にしてあげよう」とか、作為的なものは何もないですね。  
A.それは全然ないです。元氣にしてあげよう・・・全然ないですね。

人は、その人本来が持っている力で自然に元氣になるんだと信じています。その人はその人自身で素晴らしい、と思います。
でもその人自身が、自分は素晴らしくない、と感じる時は、その人の素晴らしさを阻害している何かがあるから、それを言葉にして出してもらえれば・・・自分がきっかけとなって吸収してどこかに置いてしまえば、その人の素晴らしさは自然に出てくる。
何かこちらが介入する、というのではなくて、その人の良さをただ引き出してあげれば自然に出てくる。


Q.相手の人がTさんに向けて個人的に怒りをぶつけてくるようなことはありますか?  
A.ありますよ。

Q.そういう時はどうするんですか?
A.まずはどうしてだかわからないから「どうして?」と聴きます。そうすると相手からどんどん出てきますよね。それを全部受け取って「あ、そういうふうにして怒っているんだ」と、まずそれはそれとして受け取ります。その上で、相手の認識が自分のイメージと違っている時には、「ここはこう感じたんだよ」と、自分が思ったことを相手にそのまま伝えます。
それでも相手が怒っていたら、また「どういうところがそういう風に思うの?」と聴いて、また「あ、そうなんだ」と受け取って、脇に置いて・・・かな。お互いの解釈にずれがあれば、ずれに対しては「不愉快な想いをさせたね」と謝りますね。


相手も自分も素晴らしい
Q.相手の怒りと自分とが一緒くたになっていないですね。
A.はい。相手も素晴らしいけれど、ある意味自分も素晴らしいので。

相手の言っていることも尊重できるし、だからといってそれは”自分の価値”とは別ですから。

言っている内容に関しては普通に扱えます。お互いの間で何かが障害になっているだけだから、障害をどけてあげたらね、全然障害なしです。


Q.そこが素晴らしい。それがごちゃごちゃ一緒くたになっているパターンが多いと思うから。
A.でもそれは勿体ないですよね。


Q.昔からそういう感じでした?
A.はい。でもね、よく”それはおかしい”と言われたんですよ。感情がないみたい、と言われて。

何を言われても怒らないなんて、人間らしくないとかね。さんざん言われました。


Q.いつ頃さんざん言われたんですか?
A.いや、医者になってからも、患者さんからワーっと文句を言われて、「あ、そういう風に思ったんですか」と全部吸収してしまうので、「先生を見ていると感情がないみたい」って。

それにまた「あ、そういう風に見えるんだー。感情がないみたいに見えるんだねー」って。
そのうち何だかみんな穏やかになっていきます。


Q.そうなんですねー。
A.吸収されると消えていきますね。

 

受け入れられれば人は動く

A.多分、人は否定されるとかえってその氣持ちが強化されるみたいなんです。

だま~って「あ、そうなんだー」と言っていると、その人も感情にとらわれたままではいられなくなって、結構いい方向に進むことが多いようです。


Q.それはでも、Tさんが本当に心から相手を尊重して「そうなんだー」と言っているからこそですよね。うわべで言われたら、かえって頭にきますよ。

人を嫌いになることってあります?
A.ないですね。”いや”という感情があっても好きかもしれない。

あまり理解してもらえないのですが、ある部分は嫌だと感じることはあっても、その人のことは好きという感じです。相手がどんなことをしてきても、「あ、そうなんだー」と本当に普通に言えるので。
自分の心は自分で傷つけなければ、たとえ相手が何をしても大丈夫です。自分の心は相手の状況次第じゃないですし、基本的に僕は人が好きですから。だ から人のお世話をするのも嫌いじゃないし、人から親切にされても素直に受けられるんです。あまり遠慮したり断ったりしません。その分自分も親切にできます し。
もし相手が断ってくれば、「あ、この人はこういう時にはこうしてほしくないんだな」と思うだけです。


Q.こんなにシンプルにしている人、あまり見たことないな~と思って感動しています。
A.そうなんですか?でもやれば簡単だし、本当に全然何も隠さなくて良くて、何も偽りがないんですよ。自由に表現できます。

楽ですよ~。ほとんど何も考えなくていいんです。思ったことをそのまま言えばいい。相手の言ったことをそのまま聴いていればいい。
相手の言ったことを「この人がこう言ったから、こうじゃないか、ああじゃないか、うんたらかんたらうんたらかんたら」ってやり始めると、一つ言った ことを10くらい考えるでしょう?

そんなことをしなくても、一つ言ったら一つ”そうなんだ”と思えば、楽で楽しいじゃないですか。
中学の頃、一つ思ったことがあったんです。
現代国語の読解問題が、最初は全然解けなかったんです。なぜかというと、質問に対して自分の考えたことを書いていたからなんですね。でもね、問題の 一番最初には「次の文章を読んで問いに答えなさい」と書いてあります。文章を読んで答える・・・客観的なことを聴かれているわけじゃないか。
それなのに、最初は主観的なことを聞かれていると思ったので、自分の考えを書いていたら全然点が取れませんでした。でも、書いてあるものをそのまま受け取ってそのまま書くと、得点がとてもあがりました。それが中学3年の頃でした。
それで、自分がやっていた”そのまま受け取る”ということを求められていたんだということがわかりました。いくら自分と主張が違っていても、「次の文章を読んで問いに答えなさい」という場合はそうなんだな、と。自分の想いを書くのであれば、小論文ですからね。


Q.文章を読んで、自分の想いで回答を書いていたときは、全然違った内容でしたか?
A.全然違いました。このことは、”ありのまま”を受け取るという自分の考えを確固たるものにしました。
でもね、以前は「人に合わせなさい」と教育されていたから、結構合わせていました。「横の人がこうしているから、こうしなさい」と。人から「○○」 と言われたら「○○」と思うものだ、と言われてきた感じがあったのですが、どうも違和感があったんです。僕は僕だ。何で横並びみたいなことをするんだろ う…と。
でもある時「ああ、もういいじゃないか。普通はこう思うらしい。でもそれだって実は怪しい。だって知らないもん!」と。


Q.”わからない・知らない”というのはキーワードになっているんですね。「ソクラテスの弁明」を聞いているみたい。
A.たとえば、人の行動とか心理がもしわかったとしても、それは”その人自身”じゃないですよね。

もし僕が頭の中で”ある人がこうして こうして ああ して こうするんだろう”と思ったとして、その人がその通りに行動したとしたら、それはその人らしさが全然出ていないということですよね。その人がその人 らしく生きていない、と僕は思います。
それよりも、”その人が今、そうであるのはなぜなのかな?”ということの方が知りたい。
僕のイメージでは、今はその人らしく生きていない人が多いな、と思います。だからその人らしく生きてほしい。その方が楽しいだろうな~と思うし、生き生き している感じがします。その人が自分らしく生きる事を望むのであれば、そのためにはどうしたらいいかな、と思っています。


Q.こういうお医者さまがたくさんいてくれたら、本当に嬉しいですね。
A.あ、でもね、明確じゃないと何をしているかわからなくなります。

 

Q.というと?
A.大学病院の医局のトイレには、たくさん落書きがしてあるんです。その内容が”40歳になった。自分の人生は何だったんだろう”とか”こんなはずじゃな かった”とか、悲観的なことがたくさん書いてあるんです。うちの大学だけではなくて、他の大学病院のトイレにもやっぱり書いてあるんです。
結局ね、見栄とかプライドで医者をやっていると、自分のやりたいことじゃないからそうなってしまうんじゃないかと感じています。だから、自分がやりたい!と思うことを自分がしたいようにする、というのが一番いいのだろうと僕は思います。


Q.そこなんですよ!40歳になって、本当にこれがやりたいことではなかった、やりたいことは何だったんだろう?という人、たくさんいるんです。自分がやりたいことを、ただやりたいようにやるって、世の中それができなくて苦労している人が大勢いると思うんです。

 

 

ねばならないという単語は辞書にない

A.本当にやりたいことをしている人は、ぱーっと花開く感じが僕はしているんです。大リーグのイチローにも松井にも、彼らに皿洗いをさせようとは思わないでしょう?あなたが本当にあなたのいいところをだーっと出せば、皿洗いはそれをするのが大好きな人にしてもらっていいんだと思うんです。

Q.なるほど・・・。
A.自分が一番やりたいことをやれば、他に必要なことはありますが、収入をあげることもできるし、一番その人が生き生きするでしょう。わざわざ不得意な ところを一生懸命伸ばすのは、学校の勉強で苦手科目をいやいややるのと変わりません。やれるけれど力が出ないし、疑問詞がたくさん出てきます。自分の生き 生きさがなくなることに使う時間はないです。

Q.そ・そうですよね。すごい説得力です。
A.そうなんです。簡単でしょう?いやなことをするのって大変なんですよ。

Q.本当にありのままですね。「ねばならない」という単語は辞書にない?
A.ないです。

Q.きっぱり。
Tさんが子育てしたとしたら、どういう子育てをされるんでしょうね~。子供にも”これは守らせなくては”ということがあると思うのですが。たとえば電車の中では騒がないでね”とか。

A.その子を100%受け入れると、そのくらいは守るのではないでしょうか?その子のことを本当に好き・愛しているということ、何をしてもOK、ただこういうところでは、人に迷惑をかけてほしくない、という自分の氣持ちをそのまま伝えればいい。わかる子はわかると思いますよ。

Q.そうですね。話は飛びますけれど、”裏切られた”と思ったことはありますか?
A.ないです。

Q.きっぱり。
A.ないですね。傍目には裏切られたように見えるかもしれなくても、裏切ったかどうかはわかりませんよね。

Q.信用していたんだけれど、”あれ?”と思ったこともないですか?
A.そうですね。信用している人が何か勝手にしたとしても、それってそうしただけでしょう。裏切ったかどうかはわからない。こちらが勝手に「裏切っ た!」ということにすれば裏切ったことになるし、単に相手がそうしたんだ、といえばそれだけの話。嘘をつかれたら「あー、そういうふうに言ったんだ」っ て、それだけです。

Q.そこまでくると、それは”技”ですね。
A.よく患者さんが「オレ、彼女に振られたんだ~」と言うんです。聞いているこちらも「まぁそうなんだろうなぁ」とは思うけれど、でもそれで「裏切られた~」というかどうかは、その人の解釈次第なんだろうな、と思います。
自分の気持ちや価値を状況次第にしたら、本当に周りに振り回されるでしょう。もったいないですよ。ほら、よくあるじゃないですか、相手の人が体調悪くてなんとなく不機嫌だったということ。そのせいで自分も不機嫌になっていたら、もう身が持たないですよ。
相手は不機嫌でもこちらは幸せ。もし幸せを相手に配達できれば、相手も幸せになれるからいいんじゃないですかね。不機嫌をもらって自分も不機嫌になっていたら、みんな不機嫌になっていってしまう・・・それは好きじゃないですね。

Q.今話されていることは、すごく当たり前のことなんだよなぁ、と思っているでしょう?
A.はい。

Q.それね、”普通”というよりは”すごい技”です。
A.あら~。

Q.頭でわかっている人はたくさんいるけれど、実際こんなにシンプルにさらっとやってのけているのは、”すごい技”。
A.選択次第だと思います。どっちを選ぶか次第じゃないでしょうか。

Q.周りの人から色々解釈をぶつけられることはあるでしょう?
A.あります。そういう時は自分でも一番摩擦を感じます。でも受け取って、”一般的にはそう言われているんだろうな~”と思うかな。楽ですよ、本当に。

 

批判・判断・損得勘定とは無縁のコミュニケーション

その”楽さ”とか”そのまんまでいい”というメッセージが、言葉はなくともにじみ出ているから、人が寄ってきやすいのでしょうね。寄ったらたちまち批判・判断を下してきそうな人もいますけど、そういうのがないから。
A.批判・判断ですね・・・。してもいいけれど、私は興味がないですね。不思議と私をだましにくる人はいないみたいです。もしかしたらだまされていても、だまされたと思っていない可能性はありますけれど。


Q.”損得”とか考えます?大体”損”という発想がないでしょう?
A.ないですね。何かをするかしないかは、嬉しい、楽しい、こうしたい、という感情で動きます。それは損とか得とかでは測らないでしょうね。今言われてね、損得というのもあるんだった・・・と思いました。あんまりそれは考えていませんね。


Q.やる!と決めたらとことんやり抜く、という・・・中学高校6年間ほとんど遊ばずに勉強しぬくような、そのあり方がベースにあるからこそ、実現できているシンプルさなのかもしれませんね。
今、仕事でも人生についてでも、こうなるといいなぁ、こうしたいなぁ、という夢はありますか?
A.僕はある意味、システムを作りたいな、という夢があります。何がしたいかというと、今は世間も含めて色々な”枠”があって、たとえば昔のいいもの、終戦前のものなどは、ある意味全部”だめ”としてしまったところがあるでしょう。
また”これが普通”という枠があって、いわゆるサザエさん一家のような、あれが”日本の平和な家庭”となっている。そういう枠にはめるのではなく、自由にしたい。
僕 たちの年代になると、子供がいる家庭では、夫婦共働きの人もいるのに保育園が空き待ち状態だとか、色々なことがありますよね。60歳越えると定年 でしょう。でも60歳の方は皆さんお元氣ですよね。知恵を持っていらして、しかもやりたいことがいっぱいある。その人たちがカルチャーセンターに通ってい たりするのは勿体無い!
たとえばですけれど、場所を確保して、そこに小さな子供を預ける。60歳以上で本当にやりたいという方がボランティアでいてくれて、若い人もいる、そんな場所があるといいんじゃないかと思います。
みんなで知恵を共有しながら協力して、なおかつそこで得られた知恵をお母さんたちに伝えていける。そうすると、生まれてから死ぬまでのすべてと関われるから、より人間がわかると思います。
定年を迎えた人たちって、子供と接する時も全然あわてないし、ゆったりしているから子供もゆったりしているんですよ。そういう人が竹とんぼでも作ってあげたら、子供はすごく喜びます。自分自身が作ってもらった体験がある人だからこそできることですよ。


Q.お年寄りと子供をつなぐ、ということには、私もすごく必要性を感じます。
A.つないだ上で、そこで得られた知恵をお母さんたちに還元してあげるといいですよね。夜泣きした時はこういう風にしたらいいんだよーとか、熱が出ても動けるんだったら大丈夫だよーとか。
そ うじゃないと、夜中に小児科外来がだ~~っと混んで・・・あれは健全な姿じゃないです。僕ら医者も疲弊してしまうから、小児科医のなり手が減って しまう。そういうことが改善されるだけでもずいぶん変わるだろうなぁ。自分でわかるそういうところだけでもやって、良い循環が働けば、そこからどんどん広 がっていくだろうなぁと思いますよ。


Q.ぜひぜひ!応援しますよ。
A. ありがとうございます。話す人みんなが応援してくれるって言ってくれています。東京は貸しビルなどがたくさん空いていますよね。町の中だからたくさ んの人がくることができるし、お年寄りもボランティアできてもらえる。その中には社会の第一線で活躍していた人がいたり、暖かさをもってくれる人もいる し、その人その人の持ち味を活かしてもらえればいいと思うんです。
競争じゃないですからね。おもしろいでしょう!


本当ですね。時間になってしまいました。また聞かせてください。今日はどうもありがとうございました!